セミは可哀相だ 情報プラットフォーム、No.253、10(2008)
出典:ウイキペディアアブラゼミ
高1のとき、生物のA先生が昆虫の完全・不完全変態の話の中で、セミに言及して「アブラゼミは可哀相ですね」と言った。
孵化した幼虫は地下で7年間を暮らして羽化する。太陽の光を受けて飛び回るのが2週間に過ぎないことをそのように表現したのである。
「土の下に居ることが何故不幸せなのですか」と質問をした。天敵の少ない地中で安全に成長するセミの生涯が、何故可愛そうなのか理解できなかった。
それならばミミズはもっと可哀相であり、小鳥は最高に幸せなはずである。
中2のとき、アブラゼミの寿命が7年であると教わった。
「毎年のセミが正確に7年ならば、進化の過程で差が現れ、アブラゼミは7種類に分かれているはずだ」と質問をした。
クラス全員で2年に亘って沢山のセミを捕獲した。両者に差はなかった。「先生は答えられない」といって観察の大切さを教えてくれたB先生を今でも尊敬している。
その後、17年ゼミと呼ばれる「もっと可哀相なセミ」が北アメリカに居ることを知った。
次の大発生までに17年間を待たなければならない不思議なセミである。1987年夏のドライブ旅行でのこと、イリノイ州のとある町で夜遅くモーテルに飛び込んだ。
そこで巨木が震動するような騒音を聞いた。受付の太ったおばあさんに「この音は何?」と尋ねた。「うるさいだけよ。17年毎に出てくるけど、昆虫の一種よ」とつれない返事。
おばあさんはこの土地で4回もこのセミの大合唱を聴き、歳を重ねて来たとのことである。でも「セミを可哀相」と感じたことはないようである。
7種のアブラゼミ問題は、早起きや寝坊の個体が少しでも居れば、年を変えての交雑が起こることで解決する。17年ゼミはどうだろう。答は吉村仁の著書にある。
過酷な氷河期に殆どのセミは絶滅したが、氷床の中に残された日溜まりのような狭い領域に居たセミ、しかもある年のセミだけが生き残った。
極度の低温で樹木の栄養も乏しく、成虫になる年月も長くなった。そして、成熟したらの羽化ではなく、決まった時間経過を待つ周期ゼミへと進化し、羽化すれば仲間と出逢えるようにした。
しかし、これは両刃の剣となった。15、16、17、18年などの2種類以上の周期ゼミが同時に羽化するとき(公倍数の年に相当する)に交雑が起こってしまう。
結果として、子供達の周期がまちまちになり、交尾の相手が激減していった。交雑は種を健全に維持するのではなく、破滅へ通じる道だった。
しかし、最小公倍数が大きくなる素数(17や13)では、他の周期セミとの交雑の機会が少なくなる。結果として、13年ゼミと17年ゼミが生き残ったのである。
素数ゼミは17年の3種、13年の4種が知られている。北米各地の決まったスポットにそれぞれの素数ゼミが発生するが、全く発生しない年が17年間に5回、13年間に10回あることが知られている。
私が北米旅行中に17年の素数ゼミに出逢えたことはとても幸運である。このセミたちの大合唱には、地球の歴史が深く刻まれており、素晴らしい系統維持の手段を創り上げた賛歌に思える。
我々人類も幾多の試練を乗り越えて進化(退化)してきた。種として「可哀相な生き物」など何処にも居ないのである。
参考:吉村仁著「素数ゼミの謎、小さなセミに隠された壮大な進化の物語」(文藝春秋、2005);「17年と13年だけ大発生? 素数ゼミの秘密に迫る!」(サイエンス・アイ新書、2008)
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