天真爛漫と傍若無人 情報プラットフォーム、No.254、11(2008)
恩師のU先生の語り口は、辛口で軽妙、そして皮肉とユーモアがたっぷり含まれている。歯に衣(きぬ)着せぬ発言は正論であるが、敬遠されがちである。
弟子としても、当意即妙、頭の柔軟さとやり返す才覚が必要となってくる。随分と鍛えられてきた。
落成記念の懇親会の冒頭で。多くの例に漏れず、最長老の大先生の祝辞が始まる。U先生「時計を見ておけよ。
5分で終わったら柔軟な頭の持ち主、10分以上掛かったら耄碌(もうろく)の極みだぞ」と計測を開始。手に持った乾杯のカップの冷たさが増してくる。
20分が経過した頃。U「こりゃ駄目だ。老害・老醜の最たるもの。俺があの歳になっても、あのようではない。念のために頼んでおくぞ。鈴木、5分経ったら袖を引っ張ってくれよな」 S「ガッテン。『そろそろ引き際ですよ』と引導を渡します」
大学の研究室で。U「鈴木くん、君が司会の論文発表会、枯れ木も山の賑わいかも知れないが、出席できなくなった。申し訳ない」
S「それは残念です。花咲爺さんが居ないのですね」 U「俺は意地悪爺さんかも知れないぞ」 S「眼鏡があるから、灰が降り掛かっても大丈夫です」
論文審査会、学生Aさんの「高級磁器ボーンチャイナの天然原料の精製法の研究」の発表後の質疑応答で。
U「牛骨灰でボーンチャイナを作るのは分かったが、人間の骨では?」 A「遺骨を茶碗にする人も居ると聞いています」 U「俺の時は、カップにしてくれよな。頼んだぞ、鈴木」
S「それでコーヒーは飲めますか」 審査員の一人、T先生「止めた方がいいよ。U先生は腹が黒いだろ。純白にならんよ」 U「鈴木、どちらが黒いか確かめてくれよな」 S「カラーではなく、白黒ですね。分かりました」
訪ねた先輩のM先生の室から戻って。U「Mの野郎は無知蒙昧だよ。この間、俺のことを『君は天真爛漫だね』と褒めたのに、今日は『傍若無人だ』とけなしたんだ。Mの言うことは矛盾しているだろ」 S「う~ん、見掛けは同じですよ」
この後のU研究室で。各種の辞典を揃え、学生達を交えての意見交換。U「しかし、無邪気かどうかの見当は付くはずだぜ」 B君「無邪気は無責任を意味します」
S「天真爛漫は無邪気、傍若無人は何だろう」 U「確信犯と言って良いだろう。反応を試しているのだから」 C君「類似の単語を調べませんか」 B君「無邪気系では、天真爛漫、天衣無縫、天真無垢、そして、自由奔放、唯我独尊、豪放磊落 などがありますね」
D君「確信犯系では、傍若無人、傲慢無礼、厚顔無礼、厚顔無恥などです。後ほど傍(はた)迷惑が強くなるように並べました」 S「U先生は、やはり傍若無人ということになるよ」
U先生がしばしば引用していたのは山藤章二の時事風刺漫画である。30年以上の長きに亘って会長の職に居続けたドンの言動を8つのキーワードで皮肉ったものである。
ドンの似顔絵と共に「耄碌(もうろく)して、度忘れし、勘違いをし、無責任に、誤魔化し、思い上がって、居直って、失言しただけなのに、どうして辞めなきゃならんのだ」の吹き出しのある一コマ漫画である。
年寄りが老害を生み出していることに、大きな憂い抱いているU先生のお気持ちがよく分かる。自戒の念を込めて引用しているのであろう。
歳を重ねても、柔軟な頭と、健康な体を持ち続けたいものである。敬愛するU先生は80才を越えてもなお、傍若無人風・天真爛漫流を発揮されている。
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高知県香美郡
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