無重力下で脳ミソは何を考えるだろうか②
情報プラットフォーム、No.291、12月号、2011、掲載

立体の構造物を平面の上に記述するのが製図であるが、図面を見てその実物を
理解するには訓練が必要である。複雑に立体交差したインターチェンジでは方向
感覚を失うことが多い。
地図上では目的地は右でも、分岐点では左に行かなければならないこともある。残念ながら脳ミソの方は重力の影響を受けて2 次元的な状態にあるようである。
宇宙船内では上下の概念は存在しないが、それでも上下の方向は仮にこうして置くとはっきり分かるような造作や景色になっていないと安心感が得ら れないという。
観念的な天井と床は作っておく必要がある。室内に空気の流れを作り、方向の基準とすることも必要かも知れない。宇宙船のキャビン内 のベッドの配置にもこの点を配慮する必要があるだろう。
脳ミソの活動にとっては基準となる垂直線、あるいは水平線の設定は必要であり、そのように 慣らされているのであろう。いったん慣らされた固定観念を取り除くことは大変むつかしい。
2次元でも同じような例を示す。普通は直交座標が脳ミソ に固定されているらしい。
放射状と円弧状の道路のアムステルダムで、勘違いをして道に迷ったことがある。
ベットに寝る、横になるの動詞は宇宙船内では意味がない。ベルトで固定しなければならないからである。英語の"go to bed"は宇宙船内でもそのまま使えるだろう。
ところで、四十八手がどのようなものかはよく知らないので正確に数えてないが、上下がなければ少なくとも二 十四手に縮退するはずである。いくつに縮退するか、新しい手はないかは宇宙空間に将来出て行くであろう人類にとって重要な問題である。
スポーツも いろいろ考えておくとよい。テニスや卓球のようなネットのある球技、サッカーやラグビーのようなゴールのある球技、相撲やボクシングのような格闘 技、どのような用具とルールにすればよいか、壁に向かって球を打つスカッシュは無重力下のスポーツの原型かも知れない。
立体玉突きは面白くないだ ろう。押しや引きやマッセは存在せず、すべてカーブやシュートに縮退し、またフリクションが少なく、なかなか減速しないと思われる。
さて、アメリカやECやロシヤではすでにかなりの宇宙実験が行われ、それらの結果の報告も出されている。チャレンジャーの事故で遅れてはいる が、我が国でもFMPT(第1回材料製造実験)として計画が進行中である。これらの材料実験を眺めてみたとき、気体・液体が関与するものが大部分 であることに気がつく。
固体での状態変化が少ないことは当然予想されることであろう。しかし、固体の中でも粉体の挙動を見ようという提案はないよ うに思う。これら内外の提案の中で本当にユニークな無重力下での材料実験はあるだろうか。
誰でも考えつくことばかり、というのが率直な感想である ことは否定できない。なるほど、これは面白いと皆が賛成してくれそうな、そういう提案は考えても考えても出てこない。残念である。自棄になり逆立 ちして考えるとどうなるか、などと考える。
ここで各種の提案を並べてみよう。当然のことながら無重力下では比重差を感
じないことを利用した提案が多い。
比重の小さい物質とそれの大きい 物質が均質に混合した複合材料の製造研究、重力偏析のない状態での2液相分離傾向を持つ液体の挙動の研究、比重差によって生ずる熱対流のないこと を利用した欠陥の少ない単結晶の製造研究や液体間の拡散現象の研究等である。無静圧であり、自重で潰れたり変形したりしないことを利用した提案も 多い。(つづく)
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鈴木朝夫(すずき ともお)
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